中古カメラの販売、買取専門店「諏訪写真機」
2020年5月、中古カメラの聖地とも呼ぶべき東京・新宿にオープンした「諏訪写真機」。自身も写真を撮り、機材だけでなくカメラや写真の歴史にも造詣の深い、代表の浅野正美さんは「初めてのカメラを買いに来るお客さんからベテランのカメラマンまでさまざまな方々との交流を楽しみながらお店を営んでいます」と語ります。前職を定年退職した後は自分のお店を始めようと決めていたという浅野さんにお話しを伺いました。
DATA
📷 Canon EOS 3 / EF35mm F1.4L USM / EF50mm F1.2L USM / EF16-35mm F2.8L II USM
🎞 Fujifilm SUPERIA PREMIUM 400
📷 Hasselblad 500C/M / Planar C 80mm F2.8 T*
🎞 Kodak Portra160
○Photo:Nozomu Ishikawa
○Interview & Text:Rika Kasai
東京メトロ丸の内線・新宿御苑駅から徒歩約4分。飲食店の並ぶ静かな通り沿いの日東ビル2Fに諏訪写真機があります。
「東洋のスイス」と呼ばれた諏訪地域に由来する店名
このお店の代表は「浅野さん」ですが、お店の名前は「諏訪写真機」。この「諏訪」にはどういった意味があるのですか?
浅野:私の出身地である長野県諏訪市に由来しています。諏訪地域(諏訪市、岡谷市、茅野市、下諏訪、富士見町、原村)は、もともと製糸産業の技術があった地域なのですが、戦争での疎開による移転などもあり、オリンパスやセイコー(エプソン)、ヤシカやチノンなど精密機器工場の集まる土地でした。かつては「東洋のスイス」と呼ばれていたこともあるんですよ。三島由紀夫の『愛の疾走』という小説では、下諏訪町にあったヤシカの工場をモデルにしたカメラ工場が登場しています。
2020年5月に諏訪写真機をオープンしたのはどういうきっかけからだったのですか?
浅野:以前勤めていた中古カメラ店を定年退職しまして、定年後は自分のお店をやろうと決めていました。以前の職場では、主に裏方の仕事、中古商品の調達、相場の管理などをやっていたので、経験を生かしつつ、新しいことにトライしたというわけです。
お店のカウンターに座る代表の浅野さん。上に飾られているのはご自身が撮影した写真の数々です。
カメラファンの熱い思いに応える店になりたい
お店に来るお客さんはどんな方が多いですか?
浅野:20代前半くらいの若い方からご年配の方まで幅広いですね。若い女性のお客さまは100%の方がフィルムカメラを探しに来られます。このカメラが欲しい!という確たる目的を持って初めてお店に足を運んでくださる方も多いです。男性は写真学生さんが多いですね。店にまつわる日々の発信はTwitterのみで、それもほとんど商品情報の投稿はしていないのですが(笑)、それを見てきて下さる方もいます。
Twitterも浅野さんご自身が投稿されているのですか?
浅野:そうです。ご覧いただいたのですか?(笑)。写真は載せたいと思っているので、これまでに撮影したものや、店の近くの新宿御苑で撮ったものなどを掲載しています。
とても人間味あふれるユニークな投稿が多いので、目が離せません(笑)。
浅野:なんというか、店主の人間性みたいなものが出ていれば……。それでいいのかな?という思いもありますが、お客さんご自身が諏訪写真機を選んでお店に来てくださるので、Twitterの投稿と同じように “○○のカメラに強い”というようなお店のカラーは決めず、商品に関しても入ってきたものはみんな販売しているんです。
お客さんに合わせてフレキシブルに対応してくれるお店と思って良いのでしょうか?
浅野:そうですね。中古カメラであればフィルム、デジタルいずれも取り扱っていますし、来ていただいて気になるものやお探しのものがあれば相談していただければと思います。中古店では値付けが安すぎると逆に怪しまれてしまうところがあるので、相場を見つつ、安心感、信頼感を得られる価格を付けているつもりです。
大きなショーケースには、買い取りしたあとに、点検が終わったカメラ、レンズがズラリと並びます。フィルム、デジタルを問わず商品を販売しています。
浅野さんはどんなふうにお店を育てていきたいと思っていますか?
いまは学校がオンライン授業だったり、アルバイトをしたくてもできないような状況が続いていて、出かけたり、買い物をしたいのに場所もお金もないという若い方も少なくありません。そういう若い人たちの居場所としてこの店が役に立てたらいいなと思っています。例えば、待ち合わせの場所としてここに来てくれてもいいし、なんとなくここに来たら誰かいるというような、学校、家庭以外の第三の居場所になれたら。ときどき、若い方やベテランの方が混じってそんなシチュエーションになることがあるんですよ。そんなシーンを見ているととても嬉しくなりますね。
中古カメラ店としては、横の連携も作っていきたいと思っています。店同士、お互いに情報交換をして、みんなでカメラファンの方々の熱い思いに応えていけたらいいなと思いますね。
取材当日、ガラスケースにあったROLLEIFLEXとROLLEICORD。気になるカメラがあったら浅野さんに声をかけ、実際に手に取ることもできます。
一眼レフのフィルムカメラもさまざまなモデルが並んでいます。こちらにはミノルタの一眼レフが陳列されていました。
昆虫好きが高じて写真を撮り始めた
浅野さんご自身もカメラや写真は好きですか?
浅野:私自身は昆虫マニアだったんです。中学生のころ、図鑑を眺めながらこの虫たちはどんなふうに撮っているのだろうと思い、出版社に手紙を書いたことがありました。その後、機材についてだけでなく、日中シンクロの仕方など、丁寧な解説を記載した返事をいただいたんです。感激でしたね。その返信をくださった写真家の先生とはしばらく交流が続きました。高校生になると50mmレンズと接写リング(カメラとレンズの間に取り付け、レンズの最短撮影距離よりも近づいて撮影できるようになるアダプターリング)を使って、カラーリバーサルフィルムで蝶々をはじめ昆虫を撮っていました。
蝶を追って山に登るようになると、山が楽しくなり、より大きなフィルムで撮影するようになりました。マミヤプレスなどの中判カメラを持ったのもそのころです。T-MAX400やネオパン400などモノクロのブローニーネガフィルムを使っていましたね。
昆虫と山が好きでしたから、アンセル・アダムス(アメリカの写真家)を目指してゾーン・システム(写真技法のひとつでアンセル・アダムスとフレッド・アーチャーにより考案された)も勉強しました。幸い、近くには日本アルプスがあり、写真を撮るには素晴らしい環境でした。
もちろんいまでも写真を撮っています。デジタルカメラはオリンパスのOM-D E-M1 Mark II、レンズはM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroを使っています。
カメラを持って旅行をすることも好きで、これまでいろいろなところに旅行に行きました。とても思い出深いのはルーマニアで、そのときに持って行ったペンタックスMZ-3とsmc PENTAX-FA 28-70mm F4 ALを盗まれてしまったんです。幸い、体は無事だったので、いまではこうして思い出話にできますが、とてもビックリしましたね。
店内にはお客さんが撮って送ってくれたという写真をはじめ、浅野さんも学んだゾーン・システムを考案したアメリカの写真家アンセル・アダムスのポスターも店内に掲示されていました。
ショーケースのなかには、カメラを購入したお客さんから送られてきた写真も飾られていました。「こうして買ったカメラで撮った写真を送ってくれるのはとても嬉しいですね」と浅野さん。
浅野さんが手にしているのはミノルタXG-S。フィルムカメラもデジタルカメラも同じように好きで、普段からよく撮影しているそうです。
多彩な知識と経験を惜しみなく分けてくれる
カメラや写真についてだけでなく、本や音楽、日本の伝統芸術についてなど、さまざまなジャンルに精通しており、どんな話題でも想像以上に深い知識を惜しみなく提供してくれた浅野さん。「諏訪写真機」はそんな浅野さんの知識と経験、人柄から成り立つお店です。分からないこと、知りたいことがあれば、ぜひお店に足を運んで浅野さんに訊ねてみてください。自身の知識が深まることで、カメラや写真への愛着もより一層湧いてきますよ。
カメラ販売と買取の専門店
諏訪写真機
東京都新宿区新宿1-2-11 日東ビル2F
TEL:03-6260-9312
mail:camera@suwashashinki.com
営業時間:11:00-19:00
定休日:不定休のためウェブでご確認ください
アクセス:
東京メトロ丸の内線「新宿御苑前」駅
荻窪・新宿方面からご乗車の方は、2番か3番出口からから徒歩4分
東京・四谷方面からご乗車の方は1番出口からから徒歩4分
Web:https://suwashashinki.com/
Twitter:https://twitter.com/suwashashinki