フィルムカメラ専門店&セルフサービスカフェ「カメラのヤマヤ」
東京都小平市、西武鉄道一橋学園駅から徒歩8分の場所にある「カメラのヤマヤ」。地域の写真店として30年以上愛されてきたお店ですが、2017年、店主の体調不良により閉店することに。そこで店舗を引き継ぎ中古フィルムカメラの販売店兼セルフサービスカフェとしてリニューアルしたのが、現店主の浅野毅さんです。
「フィルムカメラに興味を持った若い人に、ちゃんと動くカメラを販売したいと思ったんです」と話す浅野さんに、お店を継承した背景やフィルムカメラの魅力について伺いました。
DATA
📷Canon EOS-1V / EF35mm F1.4L USM / EF50mm F1.2L USM / EF16-35mm F2.8L II USM
🎞 FUJIFILM SUPERIA Venus 800/Kodak Ultramax 400
📷 Hasselblad 500C/M / Planar C 80mm F2.8 T*
🎞 Kodak Ektar 100
○Photo:Nozomu Ishikawa
○Interview & Text:Hida Emiko
フィルムカメラに興味を持ってくれた若い人に、「ちゃんと動く」カメラを紹介したい
古い喫茶店のようなレンガ壁の店内に並ぶのは、丁寧に整備された中古のフィルムカメラやオールドレンズ。窓際にはカウンター席が設けられ、セルフサービスのカフェやコワーキングスペースとして利用可能です。電源・Wi-Fi完備、300円払えばドリンク飲み放題で好きなだけ滞在できるという、良心的すぎる料金設定。写真集やカメラにまつわる同人誌、本やマンガも充実していて、ついつい長居してしまいそうです。
もともとここはアナログプリントを中心としたお店だったそうですね。
浅野:そうです。ここにでっかいアナログ現像機が置いてありました。店主のプリントの腕がめちゃくちゃ良くて、ファンも多かったんですよ。自分もそのひとりでした。ただ、途中で店主が倒れてしまって、奥さんが裏で介護しながらお店を切り盛りしていて。その当時から、「機械の調子が悪いから見てくれない?」とか「お客さんのカメラ修理できる?」と相談されて、ときどき手伝っていました。
どうしてお店を引き継いだのですか?
浅野:2010年頃から大手カメラショップで働いていて、フィルムカメラに関心のある若い人が増えてきていると感じていました。でも、ちゃんと動くカメラが少なかったんです。当時フィルムカメラは、ただただ時代遅れの存在とみなされていて、値段は底値。売価を考えるとメンテナンスするコストもかけられず、状態が良いものが流通していなくて。せっかく興味を持ってくれた若い人に、ちゃんと整備された使えるフィルムカメラを販売したいなと考えていたんです。
じゃあ、以前からお店を持ちたいと思っていたんですね。
浅野:そうそう。WEBショップではなく現物手渡しで、ちゃんと顔を見て売りたくて。先代のご夫婦にも良い物件がないか相談していたんですよ。それで、お店を閉めることにしたと聞いて、「じゃあここ貸して」と言ったら、「その手があったか!!」とふたつ返事でOKしてもらえて。経営に関しては全くの素人だったけど、先代の奥さんから「やっていくうちに食えるようになるわよ!」と言われて、「そんなもんかな?」と思って軽い気持ちで始めてしまいました。中古フィルムカメラの販売と、現像・プリントと、カフェギャラリーを組み合わせればなんとかなるだろうという甘い見通しで。
実際引き継いでからもうすぐ5年経ちますし、なんとかなったということですね。
浅野:なってないですよ、ボロボロです(笑)。業界自体が厳しいですよね。新品のフィルムカメラが生産されなくなって何十年も経てば、カメラの状態はどんどん悪くなる。加えて、フリマアプリなどで取引されることも多くて、モノ自体も少なくなっている。価格だけで比較されちゃうと、メンテナンスして動くようにしてから売る、うちのようなお店はどうしても不利なんです。
それでもメンテナンスは欠かさないんですね。
浅野:すぐに壊れちゃうようなカメラを掴んでしまうと、せっかく興味持ってくれた人が嫌になっちゃうかもしれないじゃないですか。「安いものを試しに買って、ダメだったら売ればいい」という人ばかりになったら、カメラの状態もどんどん悪くなっていく一方だし。
「こういうカメラは扱わないようにしている」というものはありますか?
浅野:昨今のフィルムカメラのブームで十数万円の価格がついているけど、もう部品が生産されていなくて、壊れちゃったら修理できないカメラとかは嫌ですね。見た目が綺麗でも明日どうなるかわからないし。どんなに写りが良くても……写りが良いからこそ、数ヶ月で使えなくなっちゃったらショックが大きいと思うんですよ。それを「多少高いけど、いましか買えないカメラですよ、写りもいいですよ」と売りつけるようなことはしたくない。商売向いてないんでしょうね。
初心者には、そういう良心的な商売をしてくれるお店は心強いです。
浅野:うちが怖いのは外観だけですから。入店のきっかけになればと思ってカッティングシートで「証明写真」とか「カフェスペース」とか文字を貼りまくったら「なんかこわい、逆に入りづらい」と言われるようになったんですけど(笑)、怖がらずに入ってきてくださいね! 入っちゃえば大丈夫です。押し売りとかしませんから。
お客さんはどんな方が多いですか?
浅野:始めた当初は自分と同世代か上の世代が多かったけど、最近は20代も増えていますね。フィルムが本当に初めてという人。「こういうカメラがほしい」「こういう写真が撮りたい」と相談してもらえたら、それに合ったものをおすすめします。まぁ、お客さんの希望にぴったり合った機種が店頭にちょうどあるかと言われたら、そんなこともないんだけど……。
(ここで、話を聞いていた奥さんのみいさんが補足をしてくれました)
みい:でもね、お客さんが「この機種がほしい」と言っていても、なんでその機種がほしいか、どんなものを撮りたいのかを聞いていくと、実はほかの機種でもその希望は叶えられたりするんですよ。横で見ていると、本当にほしいものが何なのかをちゃんと聞き取って、それに合った提案をしているんだなぁって。もちろんそれを受け入れるかどうかはお客さんの判断だけど、想定していなかった出合いを提供できているのかなと思います。
デジタルで撮影した写真は後から見返すことがない
浅野さんとフィルムカメラの出合いはいつですか?
浅野:小学生のときの家族旅行で、祖母にカメラを持たせてもらったんですよ。110(ワンテン)フィルムを使うKodakの12枚撮りポケットカメラ。最初はそれをずっと使っていたんですけど、家の中を探すと家族の誰かが昔使っていたカメラが出てきて。中学生のときは学校に持っていって友達を撮っていました。
それが楽しかったから高校では写真部に入ったんですけど、スポ根みたいな部だったんです。撮影会に行ったら36枚撮りフィルムを20本撮れって言われて、5本しか撮れなかったら怒られて。放課後は延々現像とプリントです。面倒になって、お金も掛かるし、一年で辞めちゃいました。
体育会系気質の写真部だったんですね。退部後は自分で撮影していたんですか?
浅野:そのまま気持ちが離れちゃって、しばらく撮ってませんでしたね。大学や仕事で必要な記録写真を撮るくらい。でも、30代のときに仕事でたまたまデジカメを貰ったのを機にまた撮りはじめて、それから10年くらい経ってCONTAX(ZEISS IKON Contaflex Ⅱ)のクラシックカメラをヤフオクで買ってから再びフィルムカメラに興味が……。その後、オールドレンズにも興味が出てきてカメラショップに通うなかで、たまたま求人を見つけて、気づいたら6年も働いていました。
そして最初の話につながる、と。浅野さんはフィルムカメラのどういうところに惹かれていますか?
浅野:やっぱり写りが違いますよね。昔のカメラは自分でいろいろ設定しないといけないし、明るさの感覚を掴むのに時間がかかったりするし、最近のカメラと違って重いものも多いし、ハードルはたくさんあるんだけど、そのカメラにしか出せない写りを体験しちゃうと使いたくなる。
実際は便利だからデジタルで撮影することも多いけど、その場でモニターを見て満足しちゃって、数年もすると「こんなの撮ったっけ」となってしまうことも多い。フィルムで撮ると、現像してスキャニングしてプリントして、その度に調子を見る。その工程がおもしろいし、記憶に残りますよね。
人が集まる場から何かが生まれるんじゃないか
お店をセルフサービスのカフェにしたのはどうしてですか?
浅野:このあたりにWi-Fiが使えるカフェがなかったから。それと、人が集まる場から何かが生まれるんじゃないか、という考えがあって、誰でも気軽にお茶を飲みに来てわいわい話したり、仕事や勉強ができる場所にしたかったんです。
イベントもいろいろと企画されていますね。
浅野:コロナ前は月に一度、「カメラのヤマ夜会」という飲み会を開いていました。食べ物や飲み物を持ち寄ってもらって。カメラ好きの人がつながれるコミュニティって意外と少なくて、埼玉とか山梨とか、遠くからは北九州や金沢からも来てくれていましたね。すごく良い場になっていたから、コロナが落ち着いたらまた開催したいなと思っています。
ポートレート撮影ワークショップや現像ワークショップはいまも開催されていますね。
浅野:ポートレートは、常連さんに人物撮影が得意でモデルさんともつきあいのあるカメラマンさんがいて企画してくれたんです。カメラマンさんとこちらでライティングなどのセッティングをして解説し、モデルさんの表情の引き出し方なども教えて、参加者さんに撮影してもらう。いい画が撮れるので、非常に喜ばれますね。
現像は難しそうに見えるかもしれないけど、モノクロの場合は割と簡単だしおもしろいんですよ。モノクロで撮影して現像所に出しても、似たような感じでしか出てこないでしょう。コントラストがピーキーに出ない。でも、現像液を置く時間や温度によって画の出方はがらりと変わります。スキルを積み上げて、撮影したときのイメージどおりに仕上げることができると、写真がもっと楽しくなるんじゃないかと思うんです。
学校の写真部に入っているけどデジタルでしか撮ったことがない学生が参加してくれたこともありました。ワークショップの後、部室で現像タンクを発見したみたいで、「自分でもやってみます」って。そういうきっかけになるのはいいですよね。リクエストしてくれれば、いろいろ企画しますよ。
フィルムの文化を次の世代につなげたい
仕事をしていてうれしいのはどういうときですか?
浅野:お客さんが喜んでくれるのが一番ですけど、たとえばうちでカメラを買ってくれて、撮影したフィルムを現像に持ってきてくれて、綺麗な写真、楽しそうな写真が写っていたりすると、「あぁ、よかったな」と思いますね。
お店を始めて5年経って、「若い人に届けたい」という気持ちに変わりはありませんか?
浅野:若い人につなげないと、続いていかないでしょう。自分たちの世代は子どもの頃にフィルムカメラに触れているから何となくわかるけど、いまの若い人はそうじゃない。初めてフィルムカメラというものに触れて、だんだん扱いに慣れてきて……そういう世代を育てていきたいんです。
フィルムとデジタルって、同じカメラでも全然違う文化のものだと思っています。ただ撮影するだけならもうスマホで十分だし、仕事で使うならすぐに撮って確認して送れなければ厳しいかもしれない。でも、撮影の瞬間や仕上げていく工程を大事にして、プリントされたものを見て感動して。その間(ま)がやっぱりいいなと思うし、そういう文化が残っていたほうが楽しいじゃないですか。
機材についても同じで、自分はNikonの昔のボディにCOSINAの新しいレンズを付けているけど、こういうのを作ってくれるメーカーが日本にあることが嬉しいんですよ。マニュアルレンズで外観は古く見えるけど中身は最新で、レンズコーティングが剥がれたりしなければ何十年でも持つ。そういう良いものが世の中に流通し続けるためには、それを選ぶ人、使う人を育てないといけないんですよね。売れないとメーカーも作らなくなっちゃうから。
だから、フィルムに興味があるなら、何でも気軽に相談してほしいです。買ってくれなくてもいいから。買ってくれないとお店としては困るし涙出ちゃうけど、でもちゃんと説明するし、点検とかもするので。どんな写真が撮りたいかを語ってくれれば自分も参考になるし、お互いにとって良いんじゃないでしょうか。
最初の一歩を踏み出す場所として
実は、この記事を書いている私は浅野さんとは10年ほどの付き合い。浅野さんがカメラショップに勤めている頃から、「これくらいの予算で、こういう場面で使いたくて」と相談してカメラを提案してもらっていました。淡々としたトーンで話すので最初は無愛想な人なのかと思いましたが、すぐに真顔で冗談を言うタイプだということに気づき、気負わず何でも相談できるように。素人質問にも呆れず懇切丁寧に教えてくれるのでとても助かっています。
今回改めてインタビューをして、その飾らない受け答えやリーズナブルな料金設定・システムに、浅野さんの人の良さを再確認しました。フィルムカメラに興味を持ちはじめたばかりの方にも安心しておすすめできるお店です。『カメラのヤマヤ』で、最初の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?
カメラのヤマヤ
東京都小平市学園東町3-1-1
TEL:042-344-1445
営業時間:10:30〜19:00
定休日:月曜・木曜
アクセス:
◯西武多摩湖線「一橋学園駅」から徒歩8分
◯国分寺駅北口/小平駅南口から銀河鉄道バス「警察学校東」バス停下車から徒歩1分
◯国分寺駅北口/武蔵小金井駅北口から京王バス「小平団地」バス停下車から徒歩5分
Web:https://yamaya-camera.jimdofree.com/
Twitter: https://twitter.com/camera_yamaya
Instagram: https://www.instagram.com/yamaya.camera/
浅野毅/ASANO TSUYOSHI
日本大学理工学部海洋建築工学科を卒業後、設計事務所に就職。フリーランスで活動した後、2010年に大手カメラショップの店員に。2017年、客として通っていた『カメラのヤマヤ』を引き継ぎ、店主となる。