昭和26年創立。歴史とともに進化を続ける「SEKONIC」
デジタルカメラが全盛の現在では、ほぼすべてのカメラに内蔵されており、自身で露出を測ることはあまりないかもしれません。「SEKONIC」は単体露出計を製造販売する、創立70周年の老舗です。近年では写真撮影以外に、映像制作者が増えたことで、露出計の需要も高まっているそう。SEKONICの大泉事業所で、営業部の皆さんにお話を伺いました。
DATA
📷 Canon EOS-1V / CANON EF50mm F1.2L USM
🎞 FUJIFILM Venus800
📷 PENTAX 67 / smc PENTAX-6×7 1:2.8 90mm
🎞 Lomography Color Negative ISO 800
○Photo:Nozomu Ishikawa
○Interview & Text:Rika Kasai
今回の取材でお話を伺った営業部の皆さん。(左から)海外担当の工藤康平さん、井口早紀子さん、杉山涼太さん、吉澤隆史さん、海外担当であり露出計営業部をまとめている黒井靖子さん。皆さんとても仲が良く、撮影時にもさまざまなポーズで楽しませてくださいました。取材時からさらに営業部にひとり人材が増えたそうで、ますますパワーアップした営業部です。
単体露出計なら「SEKONIC」。でも実は意外なものも作っていた?!
昨年70周年を迎えられた「SEKONIC」ですが、簡単にその歴史を教えていただけますか?
吉澤:1951年(昭和26年)に露出計メーカーとして設立されました。でもその2年前の1949年に露出計を作っているんですよ。当時は成光電気工業株式会社という名称で、露出計の製造販売を初めています。そのしばらく後、1960年の8月に「SEKONIC」に社名が変わり、現在に至ります。SEKONICとしては露出計事業部のほかに、OMRというマークシートの読み取り機や、温度管理の記録が必要なものに使用する温湿記録計、粘度計、監視カメラといった事業部があります。
セコニック の8ミリカメラ。(左)1960年代に製造された「ZOOM8」。(右)スイバル機構を搭載したダブル8規格の8ミリカメラ「デュアルマチック50」。フィルムの往復装填を簡単にするために、フィルム室を180度回転させるスイバル機構を搭載しています。
こちらはいずれも映写機。8ミリフィルムで撮影した映像を再生する装置です。社内にも一部現存しています。
実は、昭和30年代には8mmのカメラや映写機を大々的にやっていたんですが、あまりご存知の方は多くないかもしれません。この8mmカメラにはテーマソングがあるんですよ! YouTubeでその曲が聴けるのでよろしければぜひ!
久里千春・デュークエイセスが歌う『セコニック 8ミリカメラの歌』。作詞は野坂昭如、作曲はいずみたくという豪華な布陣です。
6人で全世界へ露出計を販売!
SEKONICは日本国内にとどまらず、世界各国で製品を販売していますが、営業部の皆さんのお仕事について教えてください。
吉澤: 実は「営業」という枠では収まらない業務内容なんですが(笑)。製品の企画からマーケティング、さらに広報、広告、販売と製造以外のことは全部やっているんです。
杉山:私は、国内担当としてカメラ販売店・量販店の巡回やYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UC7ZSf155vkJ71CLTsE3-nRQ)の管理、イベントの運営なども行っております。コロナ禍ではリアルイベントは減ってしまいましたが、YouTubeやオンラインセミナー等を活用し、露出計・カラーメーターの情報を発信しています。
吉澤:国内営業は私と杉山、海外営業には4人おりまして、現在は6名で全世界に向けて販売やディストリビューターのハンドリングをしています。6名ではさすがに足りないので、各国代理店様のご協力をお願いしています。
セコニック 創立70周年記念としてリリースされた「スタジオデラックス L-398A STUDIO DELUXE III 70th Anniversary Edition」。バーガンディカラーのボディ、ローズゴールドのパーツがエレガントな記念モデルです。クラウドファンディングMakuakeを利用した先行販売、数量限定での一般販売を行い、完売しています。
私自身は、昨年リリースした弊社の70周年記念モデル(L-308X)のプロジェクトリーダーを務めさせていただきました。ありがたいことに、多くの皆さんにご購入いただいて、ほんとうにホッとしています。
また、ユーザーの方々の声をヒヤリングするのも大きな仕事のひとつですね。露出計というのは息の長い商品なのですが、ストロボがワイヤレスになり、技術も進化しています。そこに露出計を対応させるなど、常に新しいことにチャレンジしています。セコニックは「世界初」をいつも製品にのせたいと考えていて、最近ですと、カラーメーターC-800はハリウッド発の演色評価指数であるSSIを世界で初めて搭載しました。また、露出計L-858Dでは世界初のハイスピードシンクロの露出測定ができます。
カラーメーターは、撮影以外でも企業の開発、産業用途で使用されています。産業向けのC-7000は照明など光源メーカーが開発に使用するもので、営業ツールとしても、演色性(光の質の良し悪し)をカラーメーターで測定しています。照明系の展示会に行くと、皆さん持っていらっしゃるんです。また、美術館や博物館などでも使用されています。
最近では、ビデオグラファーと言って、映像を制作する方が増えていて、授業で露出計の使い方を学ぶ学生さんも多いんです。また、コロナの影響であまり外出できないため、家のなかで撮影するという需要が高まっていて、露出計の需要が高まっています。そのため、実際に現場へ出向いてセミナーを行ったり、YouTubeに出演させていただいたりして、実際に使い方をお教えすることも増えています。
右が70周年記念モデル。ローズゴールドで上品な仕上がりです。過去には、100万台記念として18金メッキのスタジオデラックスがリリースされたこともあり、こちらは2000台限定でした。
大泉営業所のロビーには、セコニックの歴代露出計がズラリと展示されていました。
セコニックでは製品のカタログはもちろん、露出計の使い方の冊子なども制作・配布しています。
ここで海外営業の皆さんがご登場。
海外営業の皆さんもぜひ、どんな業務をされているか教えてください。
黒井:入社して23年。セコニック一筋です! 入社2年目から製品企画も行ってきました。現在は、主に北中南米を担当していて、部署の取りまとめをしています。実はカメラはデジタル派でNikonを使っています。
井口:杉山と同期で2019年に入社しました。私はフランスに半年いたことがありまして、ヨーロッパ、中東エリアを担当しています。
工藤:2017年に入社しました。僕はマレーシアに10か月程いたことがあり、現在はアジア・オセアニアエリアを担当してます。Canonのデジタル・フィルムカメラを使っていて、工場夜景などを撮影するのが好きですね。
黒井:各国に1代理店制という形で営業を行っていまして、プロモーションはもちろん、年間にどの程度の台数を買ってくれるか販売目標を決めるやりとりがメインです。海外だとブラックフライデーで10%引き!というようなセールもありますので、そういったことも利用しながら、数を決めていきます。
井口:どの機種をどの月に何台作るかという海外向けの生産の手配をしています。どの程度買って(仕入れて)もらえるかを毎月チェックしながら工場とのやりとりを行い、3ヶ月程度先までの注文の調整をします。
黒井:お客さまからの技術的な問い合わせへの対応もしますね。海外のインフルエンサーがYouTubeでの製品紹介の映像を作った際などには、内容の確認もします。製品を提供して映像を作ってもらうこともあります。
工藤:僕はグローバルサイトの方で、各国の代理店情報、製品の情報を含めてサイトの運営と保守管理をメインに行っています。アメリカの大手代理店がサイトを構築しているので、セコニック日本の窓口として業務を行い、アメリカの代理店と一緒にマーケティングを行っています。日本国内のサイトとグローバルサイトではかなりテイストが違っているんですよ。70周年のポスターデザインの際も、アメリカのマーケティングの方が、過去の歴代モデルを並べて「70」という文字を作るなど、日本人の発想とは違うものが出てくるのでとても面白いですね。
グローバルサイトに掲載された70周年記念のポスターイメージ。歴代のセコニックの露出計が並んでいます。
吉澤:ユーザー層は国内の方がアマチュアのフォトグラファーが多く、海外ではプロが多いですね。海外では風景撮影ツアーなどはあまりなく、ストロボを使用してスタジオで撮影する時に使用する事が圧倒的に多いんです。自然を撮っている人はあまり多くないんですね。
これは素朴な疑問なのですが、日本と海外で、問い合わせの内容などに違いはありますか?
工藤:中国の代理店からは製品の測定値不良のクレームなどもあります。製品の傷で箱を交換するなど、比較的クレームが多い印象ですね……。
井口:ヨーロッパは比較的あっさりしています。クレームもあまりないんです。しつこく何かを追求してくるようなことはないですね。
黒井:はっきりものを言う人もいれば、オブラートに包んで言う人もいらっしゃいます。メールでのやりとりがほとんどです。1万台のなかの1台かもしれませんが、機械は100%ではないので、問題が起こることもあります。使用状況でも違ってくるので、一概には言えないのですが、ものすごい勢いでクレームがくることもゼロではありません。日本国内ですと電話での問い合わせもできるので、おじいさまから30分や1時間とカメラ談義を拝聴したり、説明書の内容をご理解いただくために2時間お話しするということも稀にあるのですが、もしかしたらそういう方は日本だけでなく海外にもいらっしゃるかもしれませんね。
吉澤:問い合わせということでいくと、「いま滝の前にいるんだけど、どこをどうやって測ればいい?」と電話をいただくこともありました(笑)。
黒井:お客様の声を拾うために、ユーザー登録いただいた方々にアンケートを取り、あらゆる国の2500名からご回答を頂いたこともあります。皆さん真摯に回答されていて、様々な要望やお褒めの言葉を頂きました。また、女性で写真を撮る方が増えているということで、ペンダントのように持ち歩けるものをという声があり、新製品として検討したことも過去にありました(実現しませんでしたが……)。
工藤:インドの市場では、現地でお話しを伺った際、映画をデジタルではなくフィルムで撮影していて、旧モデルを使っている方が多いとのことでした。動画市場での露出計の需要がインドでも広がりつつありますね。
吉澤:CMをフィルムで撮影することが増えていますよね。映画業界はデジタル化がスチールよりも遅かったので、フィルム時代が長く、露出計は必須のアイテムでした。デジタル化が進む一方で、現在でもフィルムで撮影を行うインディペンデント系の映画も多いので、露出計、カラーメーターともに海外でも好調です。
フィルムカメラで露出計を使うことの意味
フィルムカメラでもAE機があり、単体露出計で露出を測った経験のない人も多いと思うのですが、単体露出計を使うことの有用性を具体的に教えてください。
吉澤:使ったことのない人にはピンとこないかもしれないんですが、カメラ内蔵の露出計で測るのとは違い「この場所の露出はいくつ」という基準を知ることができるので、そこからどれくらいズラすとどうなるの?ということもわかりますし、影の部分でどの程度露出が落ちるのかも分かるようになります。その露出差を理解しておけば、同じ状況を再現できるようになるんです。
ワークショップなどで初めて露出計を使った人の反応はどうですか?
杉山:ワークショップでは参加者の皆様に露出計をお渡しし、実際に使っていただきます。
被写体や撮影条件によって適した測り方も違ってきますので、そういった場合の測定テクニックについてもご紹介しています。カメラ内蔵の露出計でも明るさを確認することはできますが、単体露出計を使うことで、「イメージした画が撮りやすくなった」や「被写体本来の色を再現しやすくなった」などお声を頂いております。明暗差がある場所で露出を合わせる場所によって写り・表現が変わることをお伝えすると、驚かれる方もいらっしゃいます。
吉澤:どこを主にしたいか、どういう写真にしたいかを考えて、暗いところに合わせるか明るい方に合わせるか、またはその間をとるかを決めるために、露出計があれば、これまで漠然と撮っていた部分がはっきり分かるようになります。
フィルムで撮影する場合、ネガフィルムを使った際に露出が曖昧だとネムい写真になってしまいますし、ラボに出した場合、暗い部分は明るく補正してくださったりして、自分の意図と違った写真になってしまうこともある。でも、撮り手が露出を明確に理解していれば、ラボにも指示できるようになります。そうなると、写真が面白くなっていくんです。
プロ、アマチュア問わず人気のフラッシュメイトL-308X。シンプルかつコンパクトですが、フォトモード、HDシネカメラモード、シネカメラモードの3つのモードを搭載し、スチールだけでなく動画撮影にも使用可能なモデルです。白い光球をスライドさせることで、入射測光と反射測光を切り替えることができます。操作も簡単なので、フィルムカメラで撮影するなら、ぜひ一台持って、さまざまな光の条件下で露出を測ってみましょう。
フィルムカメラを使う人におすすめのモデルを教えてください!
吉澤:旧いカメラのシャッタースピードにも対応しているので、クラシックカメラユーザーでも使用できるモデルとして、フラッシュメイトL-308Xはおすすめです。操作も簡単ですし、プロの方も使ってくださっています。また、ツインメイトL-208はとても小さく、カメラのホットシューにつけて使うこともできるのでおすすめです。アナログ感あふれるスタイル、針がふれる感じも露出計を初めて使う方には楽しんでいただけると思います。
現在ではスマートフォンのアプリケーションで露出計がたくさんリリースされていますし、とても便利なのですがあくまでスマホのカメラを利用しているので、入射光式で測る正確な露出は得られません。測っている最中に電話やメッセージが来て、測るのを忘れてしまったりしますしね(笑) 単体の露出計で正しく測光することで、写真の可能性が広がります。最初のころは「偶然を楽しむ」ものだった写真が、確実に撮れるようになり、結果として、機材のポテンシャルを引き出すことが可能になります。また、フィルムの進化もあり、50年前のカメラを使っても、しっかり露出を測って撮影すれば、現代のカメラと遜色ない写真を撮ることができます。
フィルムカメラで撮影するけれど、露出計は未経験という方に伝えておきたいことはありますか?
杉山:露出計というと、初めは難しいイメージがありとっつきにくいかもしれません。
構図やピントも大事ですが、写真や映像は光が無ければ創り出すことはできません。光を理解し、露出をコントロールすることで表現の幅が大きく広がると思います。
撮影後すぐに確認できないからかそ、一枚一枚丁寧な写真を撮影するために是非露出計を使ってみてください。
クラッシックなフィルムカメラに似合うアナログ露出計もございますよ!
国内営業課長の吉澤さんもフィルムカメラユーザー。MAMIYA C330で撮影し、ご自身でプリントされた作品を見せてくださいました。露出計はスタジオデラックスIII L-398A。クラシックカメラによく似合うアナログスタイルで、シンプルな操作も魅力の露出計です。
老舗の看板に傲ることなく進化の道を行くSEKONIC
国内、海外営業部の皆さんは年齢差があっても、とても賑やかで仲が良く、まさにチームワークで露出計を世界へと販売している精鋭部隊です。それぞれが自身の仕事に誇りを持ち、自社製品への愛があふれていました。カメラだけでなくフィルムや写真に関連する用品の進化、そして動画市場の拡大により、露出計の役割も多岐にわたるようになっています。セコニックはそれぞれへの対応だけでなく、誰もが現場で便利かつ合理的に光を読むことができるよう、ユーザーの声を丁寧にすくいあげ、新たな機能を追加した新製品を開発し続けています。
また、国内営業課長の吉澤さんをはじめ、杉山さんも黒井さんも、工藤さんも写真を撮ることがお好きとのことで、機材だけでなく写真の話も楽しそうにしてくださるのが印象的でした。単体露出計を持ったことのない人でもワークショップに参加すれば、まるで人間取扱説明書のようなセコニック営業部の皆さんのサポートですぐに使えるようになります。さらに、セコニックのYouTubeチャンネルで学ぶこともできますから、露出計に触れ、自身の写真に確固たる「光の基準」を作り、幅広い撮影にトライしてみてはいかがでしょうか。
■SEKONIC 露出計 / 使い方ハンドブック
https://www.sekonic.co.jp/product/meter/download/pdf/catalog/catalog_handbook.pdf
露出計とは何か、また露出計の基本的な使い方やセコニックの露出計ならではの機能を紹介したハンドブックが、セコニックのウェブサイトからダウンロードできます。
SEKONIC
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