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白黒現像所「アート・ラボ」で静かに命を燃やす職人に会う

  • 2021-05-01

白黒写真現像所「アート・ラボ」

東京馬込にあるアート・ラボはモノクロネガフィルム専門の現像所です。創業66年の歴史あるアート・ラボさんに伺いました。普段見ることのできない現像所の現場と、ご自身も写真が大好きという職人3人のお話を、たっぷりとお楽しみください!

INDEX

1. 現像機は汽車ポッポ
2. 機械焼きが終了。プリントはすべて手焼きに
3. きれいなネガからはきれいなプリントができる
4. アート・ラボの職人さんは大の写真好き

DATA

📷Canon EOS 3 / EF35mm F1.4L USM / EF50mm F1.2L USM / EF16-35mm F2.8L II USM
🎞Fujifilm SUPERIA Venus 800
📷HASSELBLAD 500C/M / Planar C 80mm F2.8 T*
🎞Lomography Color Negative 800

○Photo:Nozomu Ishikawa 
○Interview & Text:Rika Kasai 

富士フイルム系のDPEショップにモノクロネガの現像を依頼した場合、ほとんどがアート・ラボに届けられ、現像・プリントされています。アート・ラボに直接持ち込み、郵送でも対応してくれますので、詳しくはアート・ラボのウェブサイトをご覧ください。

現像機は汽車ポッポ

カメラといえばデジタルカメラという時代ですが、実は新しいモノクロフィルムもたくさんリリースされていますよね。アート・ラボではどんなモノクロフィルムでも対応してくれるのですか?

高橋:もう本当にね、困っちゃうくらいたくさん新しいフィルムが出ているんですよ(笑)。だいたいのフィルムには対応しています。アート・ラボのウェブサイトに現像処理可能なフィルムのリストを掲載しているので、詳しくはそちらを見てもらえれば分かります。
フィルムのオンライン販売をしている「かわうそ商店」さんが、新しいフィルムを仕入れると送ってくれて、その度に現像のテストをするんだけど、実はフィルムのベース色を見ればだいたい何かのフィルムのOEMだったりしますから、それで判断して現像のテストをします。ときどきある謎のフィルムは自分たちで撮影して、現像のテストをしてから受け付けのアナウンスをします。テストは現像時間の基準を出すためのもので、例えば使用期限の切れたものなどは感度が出ないこともあるので、現像時間を長くしたり、フィルムごとに調整はしています。

現像って、実際どんな風にやっているのですか?

高橋:見てみますか?

現像機と高橋さん。入社して40年以上、アート・ラボでモノクロ現像を行っています。通常は全暗と言って真っ暗な状態で現像を行うため(光に当てるとフィルムが感光してしまうからです)、こうして明るい暗室を見ることができるのは貴重な体験です。

通常は全暗で作業するため現像機の動きをこうして見られるのは特別なことです。ラックに吊られたフィルムは手前から奥へ進んで行き、現像されます。

高橋:実際に現像をするときには、もちろん真っ暗の状態でやっているから、こんな風には見えないんですよ。でも、もう何十年もやっているから、真っ暗でもどこに何があるか分かるんです。当たり前だけど、35mmフィルムも120フィルムも全部真っ暗な中で取り出して、現像機の中に入れていきます。現像できる最大のサイズは4×5までですね。

現像機ってこんな風になっているんですね。メンテナンスはどうしているのですか?

高橋:だいたい自分でメンテナンスしているんです。前はもう一台あったんだけど、壊れてしまって、もう直すことができなくてね。いまはこれ一台。これはもうね“汽車ポッポ”だから。複雑な機構はないし本当に“機械”だから、汽車と同じでメンテナンスもシンプルなんですよ。

現像時間順にフィルムをラックに吊り、この機械の中で現像液から停止液、定着液、水洗と順に進んでいきます。フィルムサイズごとに現像を行います。

現像機には窒素ボンベが使われていて、窒素のコンプレッションによって、フィルムの液ムラを防ぐための酸素発泡をしています。

機械焼きが終了。プリントはすべて手焼きに

プリントを担当する陳野(じんの)さん。高橋さんと同期で40年以上アート・ラボに勤めています。機械焼きプリントを行ってきましたが、2020年10月末で終了。現在は手焼きのプリントを行っています。

2020年10月末で、機械焼きが終了したそうですね。

陳野:残念ながら……。もう機械を直すことができないのでね。プリントを受け付けたのに、機械が壊れて対応できないなんてことになる前に、終了することになったんです。この機械も、実は以前使っていたもう一台の機械の方から部品を取って地道に直して使ってきたんですが、もう取れる部品は全部取ってしまったという状態でね。もう一台がなかったら、もっと早くに機械焼きを終えていたかもしれないですね。

以前使っていたというもう一台の機械焼きプリンター。少しずつ移植できる部品を取り外していき、もう一台のプリンターを延命させた大切な機械です。

機械焼きを終了したあとはすべて手焼きになるのですか?

陳野:そうなりますね。私も手焼きをやります。もちろんここに入ってからは、現像からプリントまでどの工程も経験しているので、どれもできるんですよ(笑)。

機械焼きを行う陳野さん。ネガを見ただけで硬い、柔らかいなどを見分け、号調(コントラスト)や濃度を1カットずつ調整していきます。常連のお客さんのネガでは、その人の特徴を見極め陳野さんがバランスよく仕上げていたそうです。

陳野:今後はすべて手焼きのプリントになるので、価格は上がってしまいますが、プリントすることで分かる写真の良さがあります。うちにプリントを出してくださった方が自分の写真の見映えの変化に驚いたり、喜んだりしてくれるのが本当に嬉しくてね。そういったお客さんが支えとなってずっと続けて来られたんです。いまはデータにして終わりなんて人も多いと思うのですが、自分の写真が形になる喜びはプリントでしか味わえないですから、ぜひプリントしてみて欲しいですね。

きれいなネガからはきれいなプリントができる

手焼きプリント担当の山下さん。もちろんプリント作業をするのは暗室。セーフライトのみが点灯しています。暗闇の中、約30秒近くの長時間露光でしたが、ぴくりとも動かずブレなかった山下さんにビックリ!!

山下さんはずっと手焼きのプリントを行っているのですか?

山下:アート・ラボに入って25年になりますが、全紙サイズまでの大伸ばしの手焼きプリントを主に担当しています。

初めてプリントを注文するとき、どんな風に自分のイメージを伝えるといいでしょうか?

山下:自分の見せたいものがまず何か。風景なら空や山、人物なら顔をきちんと見せたいとか……。その上で、濃度やコントラストなどを調整し、プリント時に強弱をつけていきます。難しい専門用語などは必要ないですから、何を重視するかを教えていただけるといいと思います。白とび黒つぶれなどもプリントで救える限界はあるので、撮影時の露出はもちろん、現像も大切です。プリントはネガありきの作業になるので、諧調のあるきれいなネガであればあまり調整しなくてもきれいなプリントができます。

フィルムクリーナーで古いネガの汚れを丁寧に拭き取る山下さん。青白く膜が張ったようになっているネガもこうして拭くことできれいになります。

山下:プリントの注文では、昔の写真の焼き直しもよくあります。例えば掃除したらネガが出てきたとか。古いネガは保管中の湿度などで表面がベタベタしていたり、カビが生えてしまっているようなこともあるので、できるだけ直接触らない方がいいですね。

ネガには湿気がよくないのですか?

山下:湿気がいちばんよくないです。湿度に気をつけて、暗くてできるだけ風通しのよい場所で保管してください。また、紫外線をカットするような素材を使ったネガファイルなどもありますので、褪色をできるだけ防ぐためにも、そういったものに入れておくといいと思います。

フジフイルム製の印画紙のほかに、オリエンタルのイーグル、バライタ紙のプリントも受け付けています。サイズや用紙については注文時に相談してください。

アート・ラボの職人さんは大の写真好き

モノクロ現像・プリントを行うアート・ラボの3人は、業務の一環として新しいフィルムのテスト撮影をするのはもちろんですが、休日や、旅行などでも写真を撮って楽しんでいるそうです。高橋さん、陳野さん、山下さんそれぞれが撮った写真を見せていただきました。

高橋さんの作品

Canon FTb / FD28mm F2.8 S.C. / Kodak Tri-X
撮影したのは随分前になりますが、私の出身地である長崎の五島列島で、西の方にある東シナ海を撮影したものです。

Canon FTb / FD28mm F2.8 S.C. / Kodak Tri-X
こちらも五島列島です。福江島から定期船で1時間くらいのところにある島で撮りました。私は28mmが好きで、写真を撮るときはだいたい28mmを使っています。

Canon A-1 / FD28mm F2.8 S.C. / Kodak Tri-X
折れたベンチに子どもたちが昼寝している姿が面白いと思って瞬間的に撮ったものです。当時姉が住んでいた、調布のフジカラーサービスの近く、柴崎からつつじヶ丘のあたりの公園です。

陳野さんの作品

Nikon F5 / AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S / FUJIFILM ネオパン100 ACROS II
ネオパン100 ACROS IIのテストも兼ねて、休日に出かけた富山県で散歩がてら撮影しました。明るいところ、暗いところを一緒に撮ることで、白とびや黒つぶれがどの程度なのかを試しています。

Nikon F5 / AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S / FUJIFILM ネオパン100 ACROS II
こちらも富山です。入善駅の周りを歩きながらスナップしました。新しいフィルムでは、撮影してから空、雲の調子やコントラストを確認します。

Nikon F5 / AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S / FUJIFILM ネオパン100 ACROS II
マイクロニッコールはいつも使っているレンズです。こんな風に被写体にグっと寄れるのも便利なんですよね。ピントの合った部分のコントラストやバックのヌケ感などをこういったカットで確認します。

陳野さんが愛用するNikon F5とAI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S。とりわけマイクロニッコールの55mmがお気に入りだそうで、普段使うのはこの組み合わせがほとんどだそう。

山下さんの作品

Canon EOS 7 / SIGMA 40mm F1.4 DG HSM | Art / FUJIFILM ネオパン100 ACROS II
静岡の三島で撮影しました。富士山から流れてくる水がとてもきれいだなと思って撮ったカットです。明るいグレーになるよう、水のあるところなどを探し歩いて撮りました。

RICOH GR1 / Kodak T-MAX400
葉山の港をGR1でスナップしたものです。写真にしたらキレイだろうなと思うシーンなど、被写体そのものよりも、光を見て撮ります。

Canon EOS 7 / SIGMA 40mm F1.4 DG HSM | Art / Kodak T-MAX400
比較的新しいシグマの40mmの評判を耳にして、最近使っています。こういった素材感や明暗などのある条件で撮ってみたかったので、千葉の林道に行った際に撮影しました。

仕上がりを待つワクワク感、ぜひアート・ラボで体験してください

自分が撮った写真を見るまでの間に、現像、プリントと手間のかかるフィルムでは、仕上がりを受け取ったときの喜びもひとしおです。仕上がりを待つ間のドキドキ、ワクワクする感覚はフィルムでしか味わえないもの。普段私たちが目にすることのできない現像、プリントの現場では、こうして職人さんたちが丁寧に仕事をしてくれています。ぜひアート・ラボでこのワクワク感を体験してみてください。モノクロ写真の魅力を引き出すプリントは「物」としての魅力があり、自分の写真により一層の愛着が湧きますよ。

白黒写真現像所
株式会社 アート・ラボ

〒143-0027
東京都大田区中馬込1-1-8
TEL:03-3775-1888
FAX:03-3775-2666
mail:aau73750@par.odn.ne.jp
受付時間:9:00-12:00/13:00-17:00
アクセス:
都営浅草線 「馬込駅」
東急池上線 「長原駅」
東急大井町線 「旗の台駅」
各駅よりいずれも徒歩約10分。

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